大阪革新懇は「コロナ対策を強化する提言」を作成し、11月8日大阪府に提出しました。コロナ禍のもとで4度にわたり要望書を提出してきましたが、こうした議論と運動を踏まえて「提言」を作成したもので、10項目の提案をしています。11日に記者会見をひらき、紹介しました。
➜ 大阪革新懇「新型コロナ対策を強化し、府民の命と健康を守るための提言」(pdf)
新型コロナ対策を強化し、府民の命と健康を守るための提言
1.はじめに
(1) コロナ感染で浮き彫りになった医療・公衆衛生体制
2019年秋中国武漢から広がった新型コロナウイルスは、2020年1月以降日本でも様々に変異しながら感染を繰り返し拡大させました。厚生労働省の集計では、11月6日時点のコロナ累計感染者は2270万1617人(大阪府218万7569人)、コロナ感染累計死者数は4万7080人(大阪府6636人)に達し、コロナ問題は国や大阪府などがすすめてきた医療・社会保障費の削減、医療・公衆衛生体制の廃止・縮小、医療の民営化など新自由主義政策の歪みを浮き彫りにしました。
日本国憲法25条では、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と謳い、公的責任を明記しています。しかし国は、この20年間数値目標を決めて医療・社会保障予算を削減し続けました。そのもとで患者の自己負担は大幅に増え、病院・病床は削減(感染症病床は半減)され、公的医療機関への補助金は削減され、医師・看護師数は減らされ(人口あたりの看護師数は諸外国の4分の1,医師数はOECD加盟国36か国中32位)、医療体制は著しく脆弱化しました。1994年「保健所法」が「地域保健法」に改定されて以来、感染症の相談・検査などを担う保健所は約半分に減らされ、公衆衛生体制も弱体化しました(1992年度852保健所→2020年度469保健所)。
国は新型コロナ感染拡大後も、病院・病床の削減、後期高齢者の医療費負担増などを押しすすめています。「地域医療構想」に基づき急性期病床20万床削減という目標を掲げ、2019年度厚生労働省は公立・公的病院424病院の統廃合リストを発表しました。今年10月からは一定以上収入がある75歳以上は医療費窓口負担を2倍にされました。国民の命と健康を守るためには、医療・社会保障費削減政策を根本的に転換し、病院・病床削減の中止、医師・看護師の増員、診療報酬の引き上げ、保健所予算の大幅増と職員増をはじめ、医療・公衆衛生体制を抜本的に拡充させることが不可欠です。
(2) 府民の命と健康を守るための論議を
大阪府では第6・7波で発熱外来になかなかたどり着けなかったり、保健所へ連絡がつかなかったり、入院・宿泊療養できずに自宅・高齢者施設で療養を強いられたりする府民が続出し、医療機関・保健所は機能不全状態に陥りました。高齢者をはじめ基礎疾患のある感染者が、自宅や高齢者施設で亡くなる事例が次々に起こりました。
大阪府のコロナ感染累計死者数は、全国最多の6541人(10月18日時点)、人口100万人あたり742.8人で全国平均366.1人の2.03倍(資料①)。人口100万人あたりのコロナ感染者は、24万2593.1人で沖縄県に次いで多く(10月18日時点)、3回目ワクチン接種率は59.18%、4回目ワクチン接種率は25.28%でともに離島が多い沖縄県に次いで低率です(10月17日時点、札幌医科大学資料)。全国と比べてなぜ大阪でコロナ感染者やコロナ感染死亡者が突出しているのか、大阪府はその原因をしっかり分析・検討し、早急に府民の命と健康を守るための対策を強めることが必要ではないでしょうか。
長引くコロナ禍により医療・介護施設、公衆衛生体制への府民的な関心が高まっています。そのなかで大阪革新懇は「新型コロナ対策を強化し、府民の命と健康を守るための提言」を作成し、府民の皆さんに広く論議を呼びかけます。そして、医療機関・保健所体制の強化、介護施設への支援、ワクチン接種の普及促進、PCR検査の拡大など、府民の命と健康を守るためのコロナ対策の強化を大阪府に求めます。
2.医療・介護分野の課題
(1) なぜ大阪でコロナ感染が爆発し、コロナ感染死が急増したのか
大阪は都市部での生活保護受給者・就学援助家庭・結核罹患者の割合などが高く、貧困が広がっているにも関わらず、大阪府・大阪市は全国で最も先鋭的に医療・公衆衛生機関の統廃止・民営化などの新自由主義政策を押しすすめてきました。その結果、府内の医療機関を徹底的にリストラし、医療体制を著しく脆弱化させ、医療崩壊の原因をつくりました(資料②)。
全国に先駆けてすべての府立病院を独立行政法人化する、府立病院の予算を大幅に削減する、大阪赤十字病院や千里救命救急センターなどへの補助金を廃止する、感染症の研究と対策を担う府立公衆衛生研究所と大阪市立環境科学研究所を統合縮小し全国唯一独立法人化する、住吉市民病院を廃止するなど、挙げればきりがありません。府内の急性期病床を2014年(実績)55222床から2019年(実績)52059床に削減し、コロナ禍のもとでも2020年(実績)には51746床に削減するなどの愚策をとり続け、2025年には40746床まで減らそうと計画しています(資料③④)。大阪府内の看護師養成学校の補助金を削減したため、次々に看護専門学校を閉校に追い込みました(資料⑤)。
さらに新型コロナ感染が急拡大し、府民の命最優先の対策が求められる重要な局面で的外れな対策や後手となる対応を繰り返したため、全国と比べて自宅放置死が突出して多く、コロナ感染死が急増しました。
具体的にはワクチン接種体制の遅れ、PCR検査体制・発熱外来設置の遅れ、吉村知事がイソジンうがいを奨励、松井市長が雨合羽を防護服として集める場当たり的提案をして大混乱、大阪コロナ大規模医療・療養センターに医師・看護師等を十分に配置せず機能不全、高齢者施設でのクラスター放置、大阪発コロナワクチン開発の失敗など、大阪府政・大阪市政の数々の愚策と対応の遅さが挙げられます。
(2) 「1割減の職員で2割増の患者に対応せざるを得ない」限界を超えた第6・7波
第6・7波ではもともとの医療体制の脆弱さに加えて、医療機関で感染者・濃厚接触者が次々に現れ、発熱外来を受診できない府民が急増し、救急受入れ体制も困難になり、その結果自宅に放置される感染者や感染死亡者が多数現れました。多くの医療機関は通常診療の傍ら限られた施設・人的体制で、発熱外来や救急応需、在宅患者対応に全力を尽くしましたが、急増する発熱患者に対応できる能力を超え、圧倒的な発熱外来の不足、病棟・病床の不足に悩まされました。コロナ以外の病気でも重症化したり死亡者が出たりした可能性があります。
多くの介護施設ではクラスターが多発し、介護施設は「医療無きコロナ病床」状態となり、重症化リスクの高い高齢者が次々に命を落としました。高齢者が社会とのつながりを長期間遮断された結果、認知機能が低下したり、フレイル状態が介護を必要とする状態に悪化したりする事例は少なくなく、今後の健康寿命に大きな影響を及ぼすことが懸念されます。国や大阪府は、医療機関や保健所の負担軽減を口実に「全数把握」見直しを行い、65歳未満の陽性者の届け出を「自己申告」としました。これでは今後のコロナ感染の全容を把握することが困難になることが懸念されます。
(3) 10項目の提言
医療・公衆衛生は消防・警察・教育などと同様に、国民の命と安全かつ豊かなくらしを支えるために不可欠です。①常に不測の事態に備える体制を構築しておくこと、②「いつでも・だれでも・どこでも」活用できること、③「早期発見・早期治療」に努めることが大原則です。今後も繰り返し起こりうるコロナ変異感染や未知の感染症に備えて、大阪府はこの原則を貫いて府政を運営することが求められます。
大阪府のコロナ感染症対策関連費は、2020年度(決算)1兆1897億7527万7000円(国庫支出金・市町村負担を含む)のうち大阪府の負担はわずか0.29%、2021年度(決算)1兆8343億7894万5000円(国庫支出金・市町村負担含む)のうちわずか2.47%、2022年度(予算)1兆2942億256万1000円(国庫支出金・市町村負担含む)のうちわずか1.90%に過ぎず、その大半は国の交付金などです。
大阪革新懇は、今冬コロナ感染第8波とインフルエンザの同時流行が懸念されるもとで、府民の命と健康を守るために、大阪府に以下の10項目のコロナ対策を強く求めます。
1.大阪府がすすめている病院・病床削減計画を中止すること。
2.公的医療機関の民営化(独立行政法人)をやめ、安定した医療提供体制、医師・看護師体制を拡充すること。そのための補助金制度を復活すること。
3.大阪府版CDC(感染症予防センター)を大学・研究機関・医師会等の専門家の英知を結集して創設し、抜本的な感染予防体制をつくること。
4.府民に対し、正確・迅速・わかりやすい情報提供を行うこと。
5.公的医療機関、民間医療機関における連携・機能分担で感染症病床・中重症病床の配置整備、発熱外来・救急受入れ体制を抜本的に整備すること。
6.土日、祝日などを含め24時間365日、発熱者への迅速な検査・発熱外来の確保、ワンストップの相談体制を確立すること。
7.情報弱者である高齢者・障がい者・在日外国人等への支援を強め、医療・介護へアクセスできる体制を確保すること。
8.コロナワクチンの安全性を検証し、コロナ後遺症相談センターを設置すること。安定した検査・コロナワクチン供給体制を確立すること。すべてのエッセンシャルワーカーへのきめ細かい(PCR検査・ワクチン接種等)対応を行うこと。
9.コロナ対応にあたる民間医療機関・介護事業所への必要十分な補助(助成)・支援を行うこと。
10.新型コロナ対応への医療費、ワクチン接種などの費用は無料とすること。
3.公衆衛生分野の課題
保健所は、憲法第25条の生存権にもとづき、国民が健康に生きていく上で大切な役割を担っています。保健所の設置は法律で決められ、各都道府県・政令市・中核市が設置しています。そして、公衆衛生向上のために、医師・保健師・栄養士・臨床検査技師など様々な職種の職員が多種多様な仕事をしています。まさに専門家集団の職場です。感染症対策や精神保健業務、難病対策、母子保健などの業務を行いつつ、地域の医師会や医療機関などとも連携して、地域の健康づくりや予防活動に貢献する役割も担っています。しかし、1990年代後半からじわじわと保健所が削減されてきました。2000年まで大阪府内に保健所は61か所ありましたが、現在は18か所(資料⑥)、3分の1以下に減らされました。
今日の事態を招いたのは、保健所や公衆衛生行政を後退させてきた政治の責任が大きな要因であることはもちろんですが、感染症対策の基本を放棄して、保健所や医療現場にその責任を押し付けていることに大きな問題があります。厚生労働省によれば、感染症対策の基本は「持ち込まない、持ち出さない、拡げない」ことで、感染経路の遮断が感染拡大防止のためにも重要な対策だとしています(資料⑦)。保健所の体制や機能が脆弱であるため、本来すべき感染症対策ができなくなり、その結果「だからもうやらない」というのが、まさにこれまでの状況です。そして、感染者を広げるだけ広げておいて、医療機関と保健所に感染症対策の責任を押し付けているため、医療機関と保健所が疲弊・崩壊するのです。
とりわけ、大阪ではこうした感染症対策が十分ではなかった上に、早々に「出口戦略」という言葉が多用され、「大阪モデル」という独自基準が使われるようになり、科学的な検証や現場の状況、保健師や医療従事者の声に耳を傾けることなく、知事のトップダウンですすめられてきたことに大きな問題があります。その結果が、コロナ死者全国ワーストワンという状況を招いた一因です。
今から14年前の2008年、新型インフルエンザが大流行しました。当時、厚生労働省の新型インフルエンザ対策総括会議は報告書を作成しています。その報告書には「保健所や地方衛生研究所を含めた感染症対策に関わる危機管理の組織や人員体制の大幅な強化、人材の育成を進めることが必要」(全体的事項)、「新型インフルエンザを含む感染症対策に関わる人員体制や予算の充実なくして、抜本的な改善は実現不可能である」「体制強化の実現を強く要望し、総括に代えたい」(結びに)と明記されています。しかし、この14年間保健所等の体制が強化されることはなく、大阪府では職員基本条例が作られ、強引なまでの職員削減が強行されました。保健所や健康医療部門も例外ではありませんでした(資料⑧)。
こうした状況の中、保健所では保健師や職員の過重労働が深刻な問題になりました。多い時には大阪府管轄の保健所で100人以上が過労死ラインを超える月80時間以上の時間外勤務をしなければならない事態となり、月200時間を超える時間外勤務をしている職員もいます。しかし、それでも吉村知事や松井大阪市長は保健師の増員や保健所の体制強化には消極的で「(感染が)減った時にどうするの?何もやることなくてずっと座っているんですか?(吉村知事)」「有事に備えたら平時に人が余る(松井市長)」などと発言しています。
そのため、コロナ禍の3年間でも十分な増員や体制強化は行われず、短期間の派遣労働者の雇入れや外部委託による対応でやり過ごしてきました。
奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの研究チームは、人口当たりの保健師数が多い都道府県ほどコロナ感染者の割合が低いことを発表し(2022年5月10日)、「保健師増がコロナ感染拡大を封じ込めるのに役立つ可能性がある」と述べています。今回のコロナ禍での経験をしっかりと総括し、関係者の声に耳を傾け、新たな感染症が流行したときに迅速に対応できる府民の公衆衛生の向上、健康ニーズ体制の強化が求められます。
1.保健所予算を大幅に増やし、保健所体制の強化と職員の増員をすすめること。
2.保健所業務を民間に委託するのではなく、正規職員を採用して専門職の育成に努めること。
3.保健所職員が過労死ラインを超えた時間外勤務を強いられないよう、早急に対策を講じること。
4.当面地方独立行政法人・大阪健康安全基盤研究所を支援し、コロナ対策を強化すること。
5.今後独立法人ではなく、府立の公衆衛生研究所を設立すること。